50歳目前で大病を患い、命こそとりとめたのですが、それまで務めていた商社の仕事は、辞めざるを得ませんでした。でも、死ぬか生きるかの闘病を経験したため、業績をあげるためには多少身体に無理をさせたっていいという、それまでの価値観はがらりと変わり、今はこうして元気に暮らしていることを心から嬉しく思い、毎日妻や職場に感謝の気持ちを持って生活しています。今の勤務先は幼稚園から大学まである、同じ市内にある学校法人です。もちろん教員ではなく用務員さん。雑用係です。それでも私と妻が暮らしていく分には十分なお給料を頂けますし、早出や残業は全くないのでありがたいと思っています。
用務員の仕事は様々ですが、管理人業務と同じで、沢山ある教室の鍵を管理しています。大学附属の私立の学校ですから設備は大変恵まれていて、その全ての施設に鍵がありますから、管理もなかなかし甲斐があります。それぞれの鍵は、キーホルダーでどこの鍵なのか判別してます。
朝、出社したらまず、生徒たちが使う教室を点検しながら鍵を開けて周り、生徒たちが出入りする校門の鍵を開け、生徒たちの登校に備えます。日中は理科室、被服室などの特別教室の鍵を、担当する教諭が取りにきます。放課後は部室棟の鍵を生徒が取りに来たり、補講で使うセミナールームの鍵を生徒や教諭が取りに来たりします。それらの鍵は貸しだしたら返却されるまで、しっかり把握しておくのも用務員の仕事です。
鍵を通じて教諭や生徒たちと会話を交わすことができ、生徒でも教師でもないけれど、自分もこの学校の仲間なんだという、安心感のようなものも感じます。仕事で業績をあげることで自分の存在価値を見出そうとしていた昔とは、全く違う毎日がここにはあります。そう思うとこの沢山の鍵たちも、自分の大切な仲間だという意識が湧いてきます。